元家裁書記官が教える相続のリアル|相続争いは解決するものではなく防ぐもの

「仲が良い=相続争いが起きない」という認識

相続問題を考える上で、まず初めに知っておいてほしい大きな “勘違い” があります。

特に、自分が将来亡くなったときの、子どもたちへの相続を考えるケースでとても多いのですが、

  • 「うちの兄弟姉妹は昔から仲が良いから相続争いなんてしないだろう」
  • 「うちにはお金にがめつい(欲深い)子はいないから遺産のことで揉めたりしないはず」
  • 「うちはそもそも奪い合うほど遺産がないから相続争いなんて起きるはずがない」

といった誤った認識です。心当たりはありませんか?

私は家庭裁判所で書記官として勤務していましたが、当事者の方から「親が亡くなる前までは普通に仲良かったんだけどね」という声を何度も何度も耳にしました。

裁判所にやってくるのは、最初からいがみ合っていた家庭や資産家ばかりではなく、ごく普通の仲の良かった家族も大勢いるのです。

この現場での実感を裏付けるように、最高裁判所の司法統計など、客観的な資料にもその傾向は表れています。

令和6年司法統計年報によれば、遺産分割事件の申立件数(審判+調停)は、実に1万6321件にも上り、近年は増加傾向にあります。

この数字は家庭裁判所に持ち込まれた件数ですので、相続争いは起きたものの、弁護士が間に入って解決できたというようなケースは含まれていません。物凄い数ですね。

また、遺産の内容別に見ても、家庭裁判所の事件のなんと約78%の事件が「遺産5000万円以下」のものなのです。

さらに驚くべきことに、「遺産1000万円以下」という、ごく一般的な家庭だけで全体の約36%を占めているのです。

これらから分かるように、相続争いは、どこにでもある普通の家族に起こる問題なのです。


なぜ一般的な仲良し家族で相続争いが起きるのか

では、なぜ仲の良かった家族が、それほど多くない遺産を巡って揉めてしまうのでしょうか?

裁判所の現場で見てきた「本当の理由」は、主に次の3つです。

揉める原因を単に「お金が欲しいから」だと思っていませんか?実は違います。

遺産分割調停でよく出てくるのは、「私はずっと近くで親の介護をしてきたのに」「お兄ちゃんだけ昔、大学の学費を出してもらったのに」という過去の不満です。

遺産という目に見える形で「自分の頑張りや愛情」を認めてもらえなかったとき「過去にあった差」を親が覚えていないと感じたとき、仲の良かった兄弟姉妹が一瞬で対立関係に変わってしまいます。

例えば、現金が1億円あれば、5人の子どもたち全員に2000万円ずつきれいに配ることができます。

また、それに加えて不動産があれば、長男が不動産を相続し、ほかの4人が2500万円ずつ受け取るという配分も可能です。

しかし、普通の家庭の遺産は「実家(不動産)と、少しの貯金」というケースがほとんどです。

家を2つに切り分けることはできないので、「誰が住むのか」「実家は好きにしていいからその分現金で欲しい」「ほかの人に売るならいくらで売るのか」等を巡って、現金がないからこそ妥協点が見つからず、泥沼化してしまうのです。

これもよくあるケースです。

本人同士は「まぁ家族だからいいよ」と納得しかけていても、家に帰って配偶者に報告した途端、「うちだけが損するなんて納得できない」「子どもの大学の費用だって必要なのよ」とブレーキがかかります。

「口を出す」と少々悪い書き方をしましたが、それぞれに守るべき自分の家族があるので、この感情は当然のもので、何も間違っていません。

いつまで経っても自分の子どもであることに変わりはありませんが、その子どもたちも大人になります。

大人になると、単に兄弟姉妹の昔の「仲の良さ」だけでは解決できなくなるのです。


相続争いは「解決する」のではなく「防ぐ」ことが重要

タイトルにも記載しましたが、相続争いは起きてしまったときに「解決する」のではなく、そもそも起こらないように「防ぐ」ことが何より重要です。

なぜなら、交通事故や犯罪に巻き込まれた場合と異なり、相続で争う相手は大切な家族だからです。

その場限りの見ず知らずの他人であれば、裁判で白黒つけて二度と会わなければ、解決したと思えるかもしれません。

しかし、家族はこの先もずっと関係が続き、お互いに協力していくべき相手です。

一度壊れた家族の絆は、相続争いが法的には解決したとしても、心情的には遺恨が残ってしまったりして、完全に元通りになることは難しいでしょう。

また、起きてしまった相続争いを「解決する」ためには、相続人それぞれが弁護士に依頼し、裁判所の調停・審判・訴訟の手続きを利用することになります。

本来は、「家族が築いた財産を家族が受け取る」というシンプルな話であるはずです。

しかし、ひとたびボタンの掛け違いが起きれば、そこに多大な費用・労力をかけざるを得なくなりますし、最終的に遺産を手にできるまでに、何年もかかるケースがザラにあります。


相続争いを未然に「防ぐ」ためには

私は、相続争いのキーワードは、「元気なうちの予防法務」にあると考えています。

「予防法務」とは、将来起こりうる法的紛争をあらかじめ想定した上で、それを未然に防げるよう対策を講じておくことをいいます。

特に相続の話で言えば、紛争が起こるのは自分がいなくなってからなので、揉めている家族をなだめることも、仲裁することもできません。

また、年齢によって認知能力が低下したり、急な病で意思表示が難しくなってからでは、取りうる手段の選択肢が格段に減ってしまいます。

相続に自分の意思を反映して、家族が揉めないように対策できるのは、自分が元気な間だけです。

「元気なうちの予防法務」この視点を持つことが、残された家族の負担を軽減することに直結するのです。

「元気なうちの予防法務」を実践する手段は、そのひと、その家庭によって変わってきますので、ここではほとんどのケースで共通するものをズバリ2つ挙げておきます。

  • 遺言書の作成
  • 計画的な生前整理

詳細は別記事に譲りますが、遺言書を作成することで残された家族に自分の意思を伝えることが何より重要です。

遺産というものは、当然その方個人の財産であったものですから、本人の「こういうふうに使いたい」「誰にいくら渡したい」という意思が、家族が納得できる一番の材料となります。

また、自分の思いや希望など、法律行為以外のことも「付言事項」として残すことにより、さらに納得度が高まり、感情的な対立を防ぐ効果が期待できます。

遺言書にも種類がありますが、特に公正証書遺言については、公証人の関与の上で作成され、原本も公証役場に保管されるため、偽造・改ざん・紛失のおそれが少なく、最も安全に自分の意思を残せる方法だといえます。



そして、その遺言の内容を、本当に自分の意思に沿ったものにするために重要となるのが、計画的な生前整理です。

遺産の分け方を考えるとき、遺産の全体像やものの価値が分からないと、「〇〇にはこれくらい多く渡したい」という自分の考えと実際に渡す割合がずれてしまいます

計画的に生前整理を進め、自身の財産を正確に把握することは、相続に自分の意思を反映させるために必要不可欠なプロセスなのです。

また、その一環として、きれいに分けられない不動産等の財産を現金化すれば、自分の意思に正確に沿うような細かな調整をすることも可能になります。

こうした理由から、上に挙げた2つは、円満な相続を実現するためにはどの家庭でも必須といえるでしょう。


何度も言いますが、大事なことは「元気なうちの予防法務」です。

この記事を読んでいただいた方には、せめてこのキーワードだけは頭に入れておいていただけたらと思います。

これが紛争の現場を見てきた元家庭裁判所書記官が伝えたいことです。

「まだ早い」「うちは関係ない」と思わず、ぜひ今日から大切な家族のために一歩を踏み出してみてください。


「そうは言っても、うちの場合は何から始めればいいの?」

「親にどうやって遺言書の話を切り出せばいいか分からない・・・」

調べても調べてもこういった不安や疑問は拭えていないと思います。

相続の形は、家族の数だけ違います。

ネットの情報をいくら検索しても、あなたの家族にぴったりの正解は見つかりません。

また、相続に関する悩みは、家族や友人に相談しづらく、一人もしくは夫婦で抱え込むことが多いものです。

当事務所では、法的手続きなどの一般的な話だけではなく、ひとつひとつの家庭に寄り添い、家族の絆を守るための具体的な一歩をアドバイスしています。

まずはお気軽に、いま抱えている不安をお聞かせください。

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